一般社団法人の基礎知識
社会起業家を目指しておられる方に朗報です!
財団とか社団という法人格があれば、会社とは違ったレベルで社会的な格付けが得られますよね。
でも財団や社団を作るのはなんだか難しそうというイメージをお持ちではないでしょうか。
ところが現在は、簡単に財団も社団も作ることができるようになりました。
平成20年度末、公益法人制度改革という112年も続いてきた法律の改正が行われました。その結果、一般社団及び一般財団法人は誰でも登記だけで作れるようになったのです。
財団法人も、以前は1億の資産がないと作れなかったのが、改正後はわずか300万で作ることができるようになりました。以前の有限会社をつくる感覚で、今は財団法人を立ち上げることができるわけです。
ただし、社団や財団を簡単に作れるようになったとはいってもそれはあくまで、一般社団法人及び一般財団法人のことを指します。
というのも、この新公益法人制度では、法人格は全部で4区分あり、2階建ての家でいえば、1階部分が「一般社団法人」と「一般財団法人」で、2階部分が「公益社団法人」と「公益財団法人」に分けられています。
法律上は、「一般社団法人」と「一般財団法人」は公益法人ではありません。
もし、公益法人と名乗りたければ、公益性があると認定された団体である「公益社団法人」「公益財団法人」にならなければなりません。
「リアル公益法人」を目指すのであれば、法定の23区分に該当する公益事業を主な目的としなければならず、その他にも公益認定を受けるためのかなり高いハードルが用意されています。
しかし、従来の社団・財団やNPO(特定非営利活動)法人等を作る困難さから比べたら、財団も社団もいまや気持ちさえあれば手軽に作れる時代となり、簡単に公益の器を得られることが出来るのです。
さらに、一定の条件をクリアすれば、税制上の優遇措置も受けられるようになりました。
公益法人ではビジネスを展開してはいけないというイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。
実は、株式会社と同じく、営利目的の私益事業をしても、会員のための共益事業をしてもよいのです。
例えば、従来の財団認定ビジネスをめぐっては、昨今、好ましくはない事態も多く生じてはいますが、社団、財団という公益法人の器を得ることによって、一般企業からメセナとしての寄付金も集めたり、正会員、維持会員、特別会員というようなステータスをつくって、年会費を集めて社会貢献目的の会員ビジネスが展開できたりします。
いち株式会社という小さな器ではなかなかなし得ないビジネスモデルが、公益法人という大きな器を得ることにより、可能となります。
この制度改革は、この仕組みが志ある個人からつくれるようになるということでもあるのです。
ただし、株式会社とは違って、利益が出ても、出資者(=株主)への配当は原則禁止されています。
給与を支払うことは、事業運営上必要な管理費として認められているため、利益配当には該当しません。
ただ、税制面の優遇があるからとか、流行の社会起業家という幻想に捉われて生半可な気持ちで社団や財団を立ち上げるのはいかがなものでしょうか。
生涯をかけてもチャレンジしたいと思えるようなことのある情熱を持ち合わせた社会起業家の卵達が、将来の公益法人認定を目指して先ずは小さくはじめの一歩を歩み出すための制度と言えるかもしれません。
一般社団法人の特徴
設立の手続きが簡単である
新公益法人制度のスタート前は、社団法人の設立というのは、行政庁の、公益に関する特定事業を行うこと、営利を目的としないこと、主務官庁の許可を得ることが設立にあたって必要であり、設立が非常に困難でした。
しかし平成20年12月1日より、一般社団法人であれば、法人の公益性や目的は条件を満たさなくてもよくなくなったため、株式会社と同じように法務局への登記手続きだけで、設立できるようになりました。
※公益社団法人は登記だけでなく、公益認定を受ける必要があります。
社員(出資者)は2人~、財産の拠出をすることなく設立することができる
一般社団法人は、社員2名以上で設立することができます。設立の際に資金を出資する必要はありません。
※一般財団法人は、設立の際に、設立者が300万円以上の財産を拠出しなければなりません。
身軽で自主的な運営が可能
一般社団法人の必ず置かなければならない機関は、「社員2名以上」「社員総会」「理事1名以上」のみで、理事会や監事、会計監査人の設置は任意です。
また、これまでの社団法人と違って、設立登記のみで成立する一般社団法人については、行政庁の監督を受けることがないので、自主的且つ身軽な運営も可能になります。
⇔一般財団法人においては、「評議員3名以上」「評議員会」「理事3名以上」「理事会」「監事1名以上」の設置が必須となっています。
cf.「基金制度」
一般社団法人は、設立時に一定額の財産を必要としないことから、法人の財産基盤を充実させるための選択肢の一つとして、「基金制度」を採用して、法人の財産を確保することもできます。
この制度を採用するには、予め定款に、基金の拠出者の権利に関することや、返還の手続方法について必ず定めておかねばなりません。
多様な事業を行う団体として活用することができる
一般社団法人は事業目的の規制がないため、他の法律で禁止されている業種でない限りは、どのような事業でも行なう事ができます。
公益事業はもとより、株式会社のような、自己の利益を追求する「収益事業」を営むことも可能ですし、協同組合のような「共益事業」(メンバーの利益を追求する活動)を行うことも可能です。
例えば、
- 公益事業を行なう団体
- 町内会、同窓会、サークル団体
- 同業者団体、業界団体
- 学術団体、スポーツ団体
- 社会福祉系の団体
などの「法人成り」に向いていると考えられています。
法人設立時、運営時のコストが安い
- 法人設立に必要となる費用※資本金,専門家への報酬は除く
株式会社 | 一般社団法人 | |
---|---|---|
公証人の定款認証手数料 | 5.2万円 | 5.2万円 |
定款に貼る印紙代 | 4万円※ | 4万円※ |
商業登記の登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
合計額 | 242,000円 | 152,000円 |
当事務所では、電子定款認証に対応しておりますので印紙代の4万円は不要となります!
株式会社に比べ、約9万円も安く設立できてしまいます。
利益の配当が制限される
従来までの公益法人(社団法人・財産法人)は、
①公益事業を目的とする
②主務官庁の許可を得ること
③利益の分配をしない
が要件だったのですが、20年12月1日以降の一般社団法人は、
上記①と②は要件からはずれることとなりました。
つまり、③の利益の分配をしないといった法規制のみが残りました。
一般社団法人の構成員(社員や理事など)には剰余金や残余財産を分配するはできません。
利益の分配をお考えの方は株式会社や合同会社のほうが良いでしょう。
原則課税のグループと、原則非課税のグループに区分けされる
一般社団法人は税制上、非営利型法人かそうでないかで2つに分かれます。
- 非営利型法人の場合
剰余金や残余財産を分配を行わないことを定款に定めているか、または全会員に共通する利益を図る活動を行うことを主な目的としている場合は「非営利型法人」とされ、「収益事業のみ課税対象となる一般社団法人」として、収益事業から生じた所得のみ、法人税が課税されます。
この課税基準となる収益事業であるか否かは自分達で判断をしなければならないので、間違ってしまうと後から大変なことになるので、税理士等の専門家に委ねるなどの慎重な経理が要求されます。
- 非営利型法人でない場合
「全所得が課税対象となる一般社団法人」となり、税法上は、会社と何ら変わらない税制となります。
全所得課税ということになると、いくら収益事業はしていなくても、会費や寄附金、補助金なども全て課税されてしまうことになり、この法人形態が、一番損をしてしまいそうですが、収入と収支が全く同じような法人であれば、法人税の心配も不要で、税金計算も会計ソフトを使えば簡単にできてしまいますし、こちらのほうが良いかもしれません。
税金関係
非営利一般法人以外の一般社団法人は、株式会社と同様に、法人税、法人事業税、法人住民税、消費税がかかります。
ただし、法人住民税の均等割という税金が、利益が出ていない場合でも年間最低7万円課税されます。
労働・社会保険関係
一般社団法人はれっきとした法人なので、社員1人だけの組織でも原則として社会保険(厚生年金・健康保険)への加入義務が課されています。
また、従業員を1人でも雇い入れたら、労働保険(雇用保険・労働者災害補償保険)への加入が必要となります。
公的保険の加入義務の取り扱いは、株式会社の場合と同じになっています。
どのような運用形態が考えられるか
- 全員参加型
既存の全ての会員を、一般社団法人の社員総会に参加できる社員として取り込む方式。
サービスを提供する方と受ける方が一緒に社員となってしまうことから人数が多くなり、会の運営に関心のない人も増え、社員総会の運営が、費用と手続の両面で大変になってしまうおそれがあるので、その対策を検討する必要があります。
- 運営委員会型
従来の会員の中から、希望者のみを一般社団法人の社員総会に参加できる社員とする方式。
会の運営はしやすくなりますが、これまで全員参加で運営されてきた伝統ある団体の場合、法人化後の組織の維持に注意をする必要があります。
- 別組織型
従来のボランティア組織の会員をそのままとし、運営団体として管理機関のみを別途法人化することとし、新しく社員を募る方式。
法人の管理機関として、どのような機能や権限を持たせるのかを慎重に検討する必要があります。
一般社団法人かNPO(特定非営利活動法人)かの分水嶺
NPO法人というのは、一般社団・財団法人ととてもよく似ている法人です。
似ている点としましては、
- 非営利である(剰余金を分配しない)
- 会員が活動の主体となる
- 寄附金を受け入れる活動をする
等があります。
一方、決定的に違う点は、以下の点です。
- NPO法人は登記の前に所轄庁の認証を受ける必要がある。
- NPO法人は公証人役場で定款の認証を必要としない
- NPO法人は設立後の管理も所管庁が行う。
また、設立する上でNPO法人が大変なのは、社員(=議決権を持つ会員)の人数です。
一般社団法人は、社員は最低2人で設立できますが、NPO法人では、最低10人(法改正後は5人)以上の社員が必要です。
設立費用は、NPO法人のほうが優遇されています。
一般社団・財団法人の場合、定款の公証人認証手数料に52,000円、設立登記登録免許税が60,000円必要ですが、NPO法人の場合は一切会社設立費用はかかりません。
もっとも、設立までに要する時間は、NPO法人のほうが長い期間かかってしまいます。所轄庁の認証を受けてから設立登記の完了まで最低でも3カ月~4ヶ月はかかってしまいますので、急いで設立をしたい場合には、一般社団・財団法人のほうが適していると言えます。
以下、一般社団法人、NPO法人、株式会社についての比較についてまとめましたので、ご参照ください。
法人格 | 一般社団法人 | NPO法人 | 株式会社 |
---|---|---|---|
事業内容 | 公益事業&収益事業 | 17の特定非営利事業 | 何でも可 |
設立手続 | 設立登記のみ | 所轄庁の認証+設立登記 | 設立登記のみ |
設立時資金 | 不要 | 不要 | 1円~ |
設立者数 | 2人以上 | 10人以上 | 1人以上 |
理事数 | 理事は1人以上 | 3人以上 | 取締役は1人以上 |
監事数 | いなくてもよい | 1人以上 | 監査役はいなくてもよい |
所轄庁 | なし | 都道府県庁または内閣府 | なし |
監督 | なし | 都道府県庁または内閣府 | なし |
許認可等 | なし | 認証 | なし |
設立難易度 | やさしい | 普通 | やさしい |
設立期間 | 2~3週間 | 3~6ヶ月 | 2~3週間 |
公益性への信頼度 | 全くなし | ある程度はあり | 全くなし |
税制優遇 | 課税・非課税で区分 | 収益事業のみ課税 | まったくなし |
法人税率 | 18~30% | 18~30% | 18~30% |
寄附金優遇 | 課税・非課税で区分 | なし | なし |
事業報告 | なし | 毎年、所轄庁に事業報告あり | なし |
法人格取消 | なし | 認証取消で解散 | なし |